「補う」から「なりたい自分を表現する」デザインへ。多摩美術大学、アピアランスケアを「身体拡張」と再定義する産学共同授業を開講

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「補う」から「なりたい自分を表現する」デザインへ。多摩美術大学、アピアランスケアを「身体拡張」と再定義する産学共同授業を開講のメイン画像

〜乳がん罹患者を支援するカノアクルー社と連携し、デザインとアートの視点で「健康」と「福祉」の概念をアップデート〜

材料の特性を見極め、手際よくアルジネート(型取り材)を練り上げる(株)シンワ歯研 メディカル部 本間理恵氏。
アルジネートを用いた「印象採得(耳の型取り)」実習の様子。エピテーゼ制作の起点となる高度な専門技術を理解することから研究が始まります。

多摩美術大学(東京都世田谷区、学長:内藤廣)は、2026年4月より、統合デザイン学科(担当:詫摩智朗教授)のPBL(Project Based Learning)授業「肌再現とアピアランスケア*研究」を開講しました。

この取り組みは、東京都の「多摩イノベーションエコシステム促進事業」によるマッチング支援を受け、装着式人工乳房を提供する株式会社カノアクルー(東京都三鷹市、代表取締役:鈴木万紀子)を協力企業に迎えて実現したものです。

歯科技工士の本間理恵氏((株)シンワ歯研)による講義実習の様子。カノアクルー社と連携し、エピテーゼの基礎知識から技法までを体系的に学びます。

授業では、同社およびパートナーである歯科技工士の本間理恵氏((株)シンワ歯研)を講師に招き、エピテーゼ(人工装具)の高度な専門技術を理解するとともに、アピアランスケアの枠組みをアート・デザインの視点から再構築する試みとして始動しました。

*アピアランスケア(Appearance care)
がん治療等に伴う外見の変化を補完し、患者が自分らしい生活を送れるよう、医療や社会の側面から行う支援のこと。

美術大学が取り組む価値:QOLの再定義と「身体拡張」

これまで「福祉」や「ケア」の領域では、欠損や変化を元の状態に近づける、いわば「マイナスをゼロに戻す」考え方が中心でした。しかし、本学はこの領域に『表現』という視点を掛け合わせることで、新たな価値の創出を試みます。 アピアランスケアを、単なる補完ではなく、使う人が「こうありたい」と願う姿を実現するための「身体拡張」であると再解釈。眼鏡をかけたりネイルを施したりするように、自らの意思で自分を演出し、生活の質(QOL)を能動的に高めるウェルビーイング*の実現を目指します。

*ウェルビーイング(well-being)
精神的な充足感や社会的なつながりや生きがい、自己実現など、身体的な健康だけでなく、精神的な健康や社会的な健康も含む、人が満たされた状態を指す包括的な概念。

「健康」の概念をアップデートするデザイン思考

本プロジェクトでは、製品の提供に留まらず、社会へのつながりや生きがいといった「意識」に対してデザインができることは何かを問い直します。

「こうありたい」を実現するデザイン

治療の跡を隠すのではなく、その人らしい美しさや個性を引き出すプロダクトの在り方、そしてそれを許容する社会の空気感をも含めたデザインの可能性を、学生たちの瑞々しい感性を通じて探究します。

社会のアップデート

助成金制度等の公的支援の啓蒙(普及率約1割という課題解決)に加え、「福祉器具=特別なもの」という境界線を溶かし、誰もが自分らしく装える未来に向けた、デザインやサービスの「手がかり」を、実社会との関わりの中で見出していきます。

未来のデザインの役割

グラフィックやプロダクト、サービス等のデザインを通じて、人々の思考や行動にポジティブな変容をもたらすこと。デザインが持つその力を信じ、実社会への実装を目指す第一歩として本プロジェクトを推進します。

指のシリコンサンプルに、彩色後のコーティングを施す様子。エピテーゼの精巧な肌再現技術を体験したうえで、新たな表現としてのデザインの可能性を探ります。

新校舎から発信する、実社会への実装(PBL)

本授業は、実社会の課題をテーマに学生が解決策を探究するPBL(Project Based Learning)形式で、2026年4月に利用開始した上野毛キャンパスの新棟にて実施されています。

4月の開講直後には、専門家を招いた肌再現のワークショップを実施。現在は学生たちが当事者の声や社会制度をリサーチし、6月の中間発表、そして7月の最終プレゼンテーションに向けた仮説立案に取り組んでいます。

エピテーゼの技術を体験的に学びながら、最終的には審美的な提案としてのアート・デザイン作品を制作。株式会社カノアクルーの専門知識と学生の感性を掛け合わせ、実社会への実装を目指した研究を推進します。

■学校法人多摩美術大学について

理事長:青柳正規

多摩美術大学学長:内藤廣

所在地:〒158-8558 東京都世田谷区上野毛3-15-34

創 立:1935年

⼤学概要:創⽴以来「もの派」を牽引した関根伸夫、菅⽊志雄ら、またデザイン界でも深澤直⼈、佐藤可⼠和など世界を舞台に活躍する才能を数多く輩出。⼋王⼦市と世⽥⾕区に2キャンパスを擁し、絵画、彫刻、⼯芸、デザイン、建築、映像、演劇、芸術学など幅広い領域を網羅する15学科/専攻/コースと⼤学院を設置。

https://www.tamabi.ac.jp