NECは、さまざまな観点から空間の魅力や持続的な価値を高めるための活動を行っています。明治大学商学部 加藤拓巳准教授との共同研究において、シャッターアートが都市の居住意向を高める効果を発見し、9月に開催された「29th International Conference on Knowledge-Based and Intelligent Information & Engineering Systems」で成果を発表しました。また、11月8日に本件に関する論文を公開しました。
空間の価値向上に寄与するデータ活用・価値の証明
NECは、データの活用や価値の証明手法に着目し、科学的な根拠を用いて「緑がある心地よい空間」や「環境によい素材・商品」が持つ魅力の発見および市場への理解促進に取り組んでいます。今回、マーケティング分野に関して多数の研究に従事されている明治大商学部 加藤拓巳准教授と共同で、シャッターアートが空間の魅力を高め得るのかを検証しました。
今回は、バイアスを可能な限り排除する「ランダム化比較試験」を用い、図1に示す都市の情報を作成し、情報の一部である商店街のシャッターの写真を図2の3パターンに分け、調査対象者にそれぞれを提示して検証を行いました。
その結果、落書きと比較して、アートは都市の居住意向を高める効果を証明しました。
実験の詳細
都市に関する世界共通の問題の1つに、落書きがあります。行政が落書きを重大な問題と認識する理由は、割れ窓理論(broken windows theory)で説明されるとおり、小さな1つの無秩序が街全体の無秩序や犯罪を助長してしまうためです。そこで、世界中の自治体は、膨大なコストをかけて、落書き対策をしています。例えば、パリ市では、落書きなどの清掃費用に年間約6億ユーロ(2025年のレートで1,000億円程度)を充てていると報道されています(注1)。しかし、増え続ける落書きに対して、このアプローチは行政の負担が非常に大きいです。
そこで、逆転の発想として、シャッターにアートを計画的に導入する芸術活動(シャッターアート)が注目されています。これによって、落書きの余地をなくし、かつ街の活気を感じられる効果が想定されています。しかし、そのエビデンスが乏しいがゆえに、シャッターアートの導入に踏み切れない例が散見されました。
本研究は、日本の20-60代の人々1,500人を対象にしたオンライン調査環境でのランダム化比較試験によって、シャッターアートの効果を検証しました。被験者を無作為に、グループ1:通常、グループ2:落書き、グループ3:アートに分け、図1に示す都市の情報を提示しました。その中に、興味の対象である商店街のシャッターの写真が含まれており、図2に示すとおり、各グループに対応する写真を挿入しました。つまり、被験者は、シャッターの評価とは認識することがないため、バイアスを与えずに、シャッターの効果だけを抽出することができます。
その結果、居住意向を示した割合は、通常: 38.2%、 落書き: 35.4%、アート: 43.4%となり、落書きとアートで有意差が検出されました。通常と比較しても、アートの方が高いスコアを獲得しましたが、有意差は検出されませんでした。しかし、これはアートの種類や完成度によって、さらなる高い効果を得られると期待されます。



以上
論文情報
Kato, T., Chiba, Y., Hattori, A., Ikeda, R., Matsuda, A., Koizumi, M. (2025). Turning graffiti into art! The impact of shutter designs on shopping street attractiveness. Procedia Computer Science, 270, 21-27.
DOI:https://doi.org/10.1016/j.procs.2025.09.120
参考文献
注1: 日本経済新聞. (2021). 「花の都」パリ、ゴミとの戦い. 日本経済新聞, 9月6日, https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75481940W1A900C2EAF000/
この記事に関連するサイト
明治大学商学部 加藤拓巳准教授Webサイト:https://takumi-kato.com/
NEC GX(グリーントランスフォーメーション):https://jpn.nec.com/energy/gx-solution/index.html
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