ギリシャを拠点とするアーティストのジェームズ・ブライドルや、バルセロナを拠点とするドメスティック・データ・ストリーマーズによる個人の記憶をデジタル画像として再構築する作品を出展。

FabCafe Tokyo(運営:株式会社ロフトワーク 所在:東京都渋谷区)は、展示「AI is Not Magic」を2025年6月30日(月)〜8月3日(日)に開催します。AIが急速に社会へ浸透する今、私たちはどのように向き合い、それぞれの立ち位置を探る必要があるのでしょうか。AIは「魔法」ではなく、人間とAIが共に創造していく「パートナー」としての関係性を再考する必要があります。
FabCafeは、テクノロジーと人間の創造性をつなげる場として、これまでレーザーカッターや3Dプリンターといったデジタルツールを「創造の手段」として開いてきました。本展示はその思想をAIに拡張し、「AIもまた人間が創造的にオペレーションできるFABツールになりうるのでは?」という問いを起点に企画された実験展示です。
展示企画の背景:テクノロジーは魔法ではない
生成AIの技術革新と普及により、私たちの暮らしや仕事、創作活動にAIが深く関わるようになってきました。しかし、その構造やロジックに触れることなく、ただ便利な存在として利用しているケースも少なくありません。「AI is Not Magic」は、そうした魔法的な捉え方を一歩引いて問い直します。AIを正しく理解し、創造の現場で自分ごととして活用していくには、どうすればよいのか。AIとどんな距離感で付き合っていくのか。FabCafeらしい対話と実験の場を通じて、そのヒントを探ります。
展示の見どころ:AIとの対話から生まれる新しい風景
FabCafeでは、かねてよりAIと人間の関係性に関して幾つかのディスカッションを通して、「人間より優れているか、否か」という人間視点になりがちなAIに対する目線に疑問を投げかけました。今回の展示では、AIと会話しながら椅子を設計したジェームズ・ブライドルのプロジェクトや、記憶や感情に作用するAI体験を通して個人のアイデンティティに深く融合するドメスティック・データ・ストリーマーズによるプロジェクトなど、多様な視点からAIとの共創を描く作品を紹介します。来場者は「AIと自分のあいだの距離感」を探るように、対話・創作・観察を通じて体験できます。
出展アーティスト・プロジェクト
James Bridle

作家、アーティスト、テクノロジスト。作品は世界中のギャラリーや文化機関、そしてインターネット上で展示されてきた。『Wired』『The Atlantic』『New Statesman』『The Guardian』『Financial Times』などの雑誌や新聞への掲載も多数。著書に『New Dark Age』(2018年)と『Ways of Being』(2022年)があり、2019年にはBBCラジオ4で「New Ways of Seeing(見ることの新たな方法)」の執筆・ナビゲーションを務めた。

AI Chair
廃材の山をもとに椅子をデザインするようChatGPTに頼み、その椅子を実際に製作したという「AI Chair」は今回の展示のために新しく制作されます。
演画プロジェクト

漫画内のキャラを演じて遊べる参加型マンガ〈演画〉を探求するレーベル。演画ではプレイヤーのセリフが吹き出しに反映され、生成AIの返答が漫画家の手描き原稿と融合し、遊ぶたびに物語の展開が変わる。ゲーム開発者・木原共を中心に、様々な漫画家と協働し、生成ストーリー体験の可能性を広げていく。

演画 vol.1 「最後のパラシュート」
原作・ゲームデザイン:木原共
漫画:永良 新
演画の第1作の舞台は、墜落寸前の飛行機。乗っているのは、機長1名と乗客2名の計3名──ただしパラシュートは2つしかない。誰がパラシュートを使うのかを決めるのは、すでに1つを装備し自分は助かるつもりの独断的な機長。乗客である2人のプレイヤーは、文章生成AIが演じる機長を会話で説得しなければならない。乗客達で協力して全員生還を目指すか、機長と結託して自分だけ助かるか――プレイヤーの言葉次第で、全員生還から全滅まで毎回異なる展開の物語が生まれる。大規模言語モデルが社会の重要な意思決定にますます関与しつつある今、こうしたシステムが「命の価値」をどう判断し得るのかを探っていく。
Domestic Data Streamers

Domestic Data Streamers(ドメスティック・データ・ストリーマーズ)は、バルセロナを拠点とするコレクティブであり、ジャーナリスト、リサーチャー、プログラマー、アーティスト、データサイエンティスト、デザイナーで構成されています。2013年から新しいデータ言語とその社会的影響の探究に取り組んできました。
そのリサーチや活動は、映画、インスタレーション、デジタル体験、パフォーマンス、展示など、幅広いコンテクストに展開されており、その場所も学校、刑務所、映画館、美術館、多くの都市のストリート、さらには国連本部にまで及びます。バルセロナを拠点としつつ、これまでに45か国以上、すべての大陸で活動してきました。これまでに、テート・モダン(ロンドン)、香港デザイン・インスティテュート、カリフォルニア科学アカデミーなどの文化機関でもプロジェクトを展開しています。

Synthetic Memories
Synthetic Memories(シンセティック・メモリーズ)は、失われる危機にある個人的な記憶を再現し、保存することを目的としたプロジェクトです。話し言葉や書き言葉による記憶の記述を視覚的なイメージに変換することで、特に高齢化や移住、神経疾患などによる記憶喪失を経験している人々が、自身の過去と再びつながり、困難な状況の中でもアイデンティティの継続性を保てるよう支援します。
この手法では、インタビューを通じて記憶の詳細な記述を収集し、それを生成系AI(GEN-AI)用のビジュアルプロンプトへと変換します。AIはこれらの情報をもとに、個人の記憶をデジタル画像として再構築・保存します。参加者は生成されたイメージを確認・修正し、記憶を正確に反映したものとなるようにします。その結果、本人はプリントおよびデジタルイメージを受け取り、これを「メモリーベクター」と呼びます。これは記憶の視覚的で触れることのできる表現であり、過去と現在をつなぐ感情的な結びつきを強めます。
Synthetic Memoriesは、初期の認知症やその他の神経変性疾患を持つ人々の回想療法を支援するだけでなく、異なる世代間の対話を促進し、移民コミュニティ間の文化的な違いをつなぎ、相互尊重を高めるなどの効果が実証されています。また、メンタルヘルスの回復やトラウマ処理の助けとなり、文化的・建築的遺産の保存と共有にも寄与します。
このプロジェクトは、世界中の美術館や学校、コミュニティセンター、文化施設、病院、介護施設、公共空間で活用でき、個人やコミュニティが過去について意義のある対話を行い、現在と未来を豊かにする可能性を引き出します。
Synthetic Memoriesは本質的に学際的なプロジェクトであり、認知心理学、デジタル・ヒューマニティーズ、AI、アート、文化、デザインなどの分野を統合しています。テクノロジーの革新と、人間の記憶やアイデンティティへの深い理解を融合した取り組みです。
Techno Graphical Data Archive

世界中の伝統文化が天災、戦争、気候変動や人口減少などの原因により衰退の一途を辿っています。特に人の手技を要する伝統工芸の分野においては、技術革新による自動化/効率化が進み、伝統技術の消失に拍車がかかっています。日本では伝統工芸職人の高齢化が進み、口伝の技や知識が記録/継承されないまま消失するケースが多くあります。
この様な文化消失の問題は、ここ日本に留まらず全世界的に発生しています。伝統工芸職人の多くは70歳から90歳の高齢者で「熟練の技術」はたった今も失われつつあるのです。このプロジェクトは伝統工芸職人の技能をデジタルデータ化し、世界中からアクセス可能なデータプラットフォームにアーカイブすることにより、ローカルな文化の保存と継承を促進させることをミッションとしています。
FabCafe Tokyo 金岡大輝が語る、この展示に込めた想い

「AIは、魔法じゃない。だから、おもしろい。」
FabCafe Tokyoでは、デジタルファブリケーションをはじまりとして、様々なテクノロジーの登場と、それが社会にどう浸透していくか、ということをテーマに活動してきました。特にそのテクノロジーが人々のクリエイティビティと繋がり、様々なアウトプットを試行錯誤する実験場として活動しています。
今では一般化している3Dプリンティングに代表されるデジタルファブリケーション技術も、FabCafe Tokyoがオープンした2012年当時、クリエイターによって様々な表現の試行錯誤が行われ、社会での受け入れ方を実験していた記憶があります。AIも、きっと同じです。その進化をフォローすることすら難しいほど日々進化するAIは、私たちの生活にどんどんと浸透していますが、その意味を考える暇はあまりありません。気を許すと、AIは何か手の届かない巨大なテック企業が提供する、ブラックボックス化された存在になってしまいます。まるで、AIが魔法であるかのように錯覚します。
「AI is Not Magic」というタイトルには、新しいテクノロジーの使い方を試行錯誤し、意識的にそれぞれの立ち位置を考える姿勢を広めようという思いが込められています。展示では、AIと自らのクリエイティビティとを繋げながら対話し、さまざまな角度から実験を行うプロジェクトを複数紹介しています。この展示から、あなたも自分なりのAIとの付き合い方や立ち位置を探ってもらえると嬉しいです。
FabCafe Tokyo COO 兼 CTO(事業責任者 兼 最高技術責任者)
開催概要
展示名 |
AI is Not Magic |
会期 |
2025年6月30日(月)〜 8月3日(日) |
時間 |
10:00〜20:00(最終入場19:30) |
場所 |
FabCafe Tokyo(東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア1F) |
アクセス |
京王井の頭線「神泉駅」南口徒歩3分/JR「渋谷駅」徒歩10分 |
入場料 |
無料 |
主催 |
FabCafe Tokyo |


FabCafe(ファブカフェ)
FabCafeは、世界中に拠点を持つクリエイティブコミュニティです。 人が集うカフェに、3Dプリンターやレーザーカッター等のデジタルものづくりマシンを設置。 “デジタル”と“リアル”の壁を自由に横断し、未来のイノベーションを生み出します。

株式会社ロフトワーク
ロフトワークは「すべての人のうちにある創造性を信じる」を合言葉に、クリエイターや企業、地域やアカデミアの人々との共創を通じて、未来の価値を作り出すクリエイティブ・カンパニーです。ものづくりを起点に、その土地ならではの資源やテクノロジーを更新する「FabCafe(ファブカフェ)」、素材と技術開発領域でのイノベーションを目指す「MTRL(マテリアル)」、クリエイターと企業の共創プラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。目先の利益だけにとらわれず、長い視点で人と企業と社会に向きあい、社会的価値を生み出し続けるビジネスエコシステムを構築します。