松山の代表作《Portrait of dazzle》は、ダズル迷彩を用いたポートレート作品で、SNSに投稿されている顔写真から切り取った目をモデルとしており、髪型や輪郭などを変えることで全く別の人物として描いています。カメラ目線でこちらを見ている人物や、どこか他方を見ている人物が描かれていますが、どの人物も同様にスマートフォンを通して「自分」を見ています。松山はセルフィーをSNSなどに投稿し、いいねの数やコメントを見るという行為は、他人の評価を通じて自分を見ている事ではないかと考え、作中の人物たちの瞳の中にスマホの光源を描いています。
関西での初個展となる本展では、これまでと背景のニュアンスや塗料をアップデートした《Portrait of dazzle》の新作をはじめ、ネット上で人間のように振る舞うボットをテーマにした作品《Portrait of dazzle(bot)》、過去の作品をオーバーペイントした作品など計14点の作品を展示します。
《Self-portrait for multiple accounts #08》(2023)Overpainting 2024 F100(1620×1303) / Acrylic on Canvas《Portrait of dazzle(bot) #195》(2023)Overpainting 2024 F100(1620×1303) / Acrylic on Canvas
松山しげき個展"Portrait of Dazzle" ステートメント
Portrait(肖像画)とは「ある特定の個人をモデルにして描かれた絵画」の事です。肖像画は絵画のひとつのスタイルとして確立したルネサンス期以降、画家たちによって様々なテーマで描かれてきました。写実性を追及した肖像画もあれば、極端に美化された肖像画や逆にわざと醜く描かれる肖像画もありました。古くから肖像画の制作においては、画家とモデルが対面し制作するのが一般的ですが、作品《Portrait of dazzle》では、画家とモデルはネットを介して、お互いに面識がない状態で(モデルにおいては自身が描かれていることも知らない)肖像画が制作されます。この作品は、SNSに投稿された無数のセルフィーやスナップなどの顔写真から、ビデオプロジェクターを使い「目」だけを正確にトレースし、目以外の部分はモデルとしたSNS上の人物から、人種や性別、髪型、輪郭などを別の人間に描き変え、体の一部または全体を白黒のダズル迷彩※で塗りつぶした「現代人の肖像画」です。
作品《Portrait of dazzle》は、SNSに投稿されている実在の人物(の目)をモデルにしている為、この肖像画に描かれている人物は、鑑賞者の友人や家族、或いは鑑賞者自身かもしれないという可能性が示唆され、近年社会問題化しているデジタルタトゥーやディープフェイク、ジェネレーティブAIの機械学習などを問題提起しています。