■創業130周年記念事業■ 新潮社の出版倉庫が美術・工芸のギャラリー棟に

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■創業130周年記念事業■ 新潮社の出版倉庫が美術・工芸のギャラリー棟にのメイン画像

東京神楽坂にある新潮社倉庫(1959年建造。国登録有形文化財)が、2026年3月27日、美術・工芸の展示棟に生れかわります

地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩2分、建築家・隈研吾氏による大階段が際立つla kagū――新潮社の既存建物を改装した商業施設――を左に見つつ坂を上ると、新潮社本館、別館、倉庫の3棟が建っています。昭和41年竣工(築60年)の本館と、昭和34年竣工(築67年)の倉庫は、昨年、国の有形文化財に登録されました。そして創業130周年の今年、新潮社「青花」事業の一環として、いまでは稀少な昭和の出版倉庫建築を改装(建築家・中村好文監修)、美術・工芸のギャラリー棟(soko)をオープンします。

「soko」入口 Ⓒ新潮社

新潮社は明治29年(1896)創業、大正2年(1913)からここ神楽坂で出版業を営んできました。本館隣に建つ倉庫は昭和34年(1959)、戦後の出版業の隆盛期に、新刊500万冊を収蔵するために建てられました(5階建コンクリート造。延床面積約2500平米。設計施工・清水建設)。その時代の出版倉庫はほとんど残っておらず、近代日本の出版文化を流通・管理という側面から考察できる産業遺産でもあります。

「soko」外観 Ⓒ新潮社

倉庫内は大量の本の荷重に耐えられるよう、コンクリートの太い梁が無数に走り、武骨な内観を見せています。コンクリートの質や工法──木枠の跡による多様な表情、柱梁の角すべてに施された面取りなど──も見どころで、往時の真面目な職人仕事を、時を隔ててまのあたりにする思いです。

かつては倉庫正面にトラックが何台も待機し、荷台に満載された本が、直接各地の書店へ届けられることもありました。その後も出版ブームは続き、刊行点数も増えつづけた結果、ついにここには収まりきらず、都外に新たに流通倉庫を建てることになります。それ以後この倉庫の役割は大幅に縮小、一部書籍の発送などに使われる程度で、約30年間の「長い眠り」に入るのです。

「soko」内観 Ⓒ新潮社

倉庫がふたたび眼ざめたのは一昨年、2024年秋のこと。新潮社は、倉庫改修事業の第Ⅰ期として1階(一部)と3階を改装(監修・中村好文)、同社の一部門である青花室の事業──展示、催事、講座等──をスタートさせました。

青花室の事業とは、2014年設立の会員組織「青花の会」を中核とするもので、それ自体が工芸品ともいえる『工芸青花』誌の刊行を主に、美術・工芸分野の展示と講座、花会、茶会、骨董フェアなど各種催事、建築・美術をテーマとする海外ツアーの催行など、年間約50本の企画を立案、実施しています。なかでも故・坂田和實──「古道具坂田」店主。主著『ひとりよがりのものさし』(2003年刊)は新潮社刊のロングセラーで、例えば美術家の村上隆さんは坂田を「戦後日本文化の代表者のひとり」と評しています──の美学、すなわち「なんともないものこそ美しい」を伝える場として、彼が集めた工芸品を展示公開するギャラリー「坂田室」を倉庫内で始めたことは、特筆すべきかもしれません。また、ゼロ年代以降の現代日本の生活文化を代表する「生活工芸」運動との並走──展覧会の継続や関連書籍の刊行、シンポジウムの主催等──により、その文化的側面を国内外に発信しつづけてもいます。

新潮社は文芸出版と「新潮ジャーナリズム」の両輪が特色の版元ですが、それだけでなく、美術・建築関連書籍も東西古今、ジャンルを問わず刊行し、また工芸分野においても、例えば茶の湯の稀覯本や、小林秀雄、白洲正子らによる「文士の骨董」本など多数出版してきた歴史があります。「青花」はその伝統を受けつぐ事業として始まり、そしてこのたび倉庫 sokoという場所ができたことで、それをさらに発展させ、本の中身を立体化、体験化してゆくことになります。

新たにオープンするsoko2階の共用部のデザインは、Ⅰ期工事と同じく建築家の中村好文さんです(中村さんも新潮社刊の著書を多く持ち、坂田さんとは長年の盟友関係にありました)。住宅設計の名手として知られる中村さんの空間らしく、そこはまるで大きな家の広間のようで、壁に七つの引戸があり、開けて入ると……。

今回御一緒する7ギャラリー(下記)は、いずれも「青花」の同志といえる方々です(実際に皆、青花会員もしくは協賛者でもあります)。発会以来、「青花」で志していることは、工芸的心性──工芸に美を見出す心──の探求と紹介ですが、これからはここ倉庫 sokoでも、訪れてくださった皆さんと、そうした歩みをともにできたら、と願っています。

【新装開廊】

2026年3月27日(金)

*一部予約制

https://www.shinchosha.co.jp/special/soko/

【建物概要】

名称|新潮社倉庫soko

住所|東京都新宿区矢来町71

開館|11-20時

休館|毎月第3水曜、年末年始等

*開廊時間、休廊日はギャラリーによってことなります

【soko2F】

A|Café Craftern/工藝文化振興会

B|ARTISTSAN GALLERY

C|莨室 LiangShi

D|神楽坂商店

EF|Pâte à chou

G|1月と7月

H|M³

【soko3F】

青花室

坂田室